不安の消去学習
不安症の治療では、記憶の上書きを意味する「消去学習」が重要だと考えられています。

不安は「学習」するもの
パニック症、社交不安症、特定の恐怖症などの不安症では、本来危険ではないものに、強い恐怖反応が結びついています。たとえば電車の中で動悸がしたとき、「ここは危険だ」と脳が学習すると、その後は電車を想像しただけで恐怖が起こります。これは「恐怖条件づけ」と呼ばれる、ごく自然な学習の働きです。ただし、ここでいう学習とは、学校の勉強などとは違って「無意識的なもの」です。学習というよりも、頭の中に勝手に記憶が作られると思った方が分かりやすいかもしれません。
消去学習とは何か
消去学習は、文字通り記憶を消すとか忘れると言うことではありません。消去学習とは記憶が上書きされること、記憶が新しくぬりかえられることを意味します。恐怖の対象に向き合っても、恐れていたことが起きないという経験を重ねると、恐怖反応は徐々に弱まります。この時に「これは怖い」という記憶が、「これは安全だ」という記憶に上書きされていきます。これが消去学習です。不安症の曝露療法(または認知行動療法)は、この仕組みを治療に応用したものです。
例:パニック症の消去学習
電車に乗ると息が苦しくなり、ドキドキしてくるというのが典型的なパニック発作です。このために電車に乗るのが怖くなりますが、このように特定の場所が怖くなることを広場恐怖と呼びます。この治療では、まずは隣の駅まで電車に乗ってみるという課題を達成してもらいます。これくらいなら大丈夫だろうというハードルの低い課題を設定するのがポイントです。この課題を完了すれば、頭の中で、「電車に乗ると苦しくなる」という記憶が、「電車に乗っても苦しくならない」という記憶に上書きされます。その次は、2駅ほど電車に乗り、その次は3駅というように徐々に距離を長くしていき、「電車に乗っても大丈夫だ」「電車は安全な場所だ」という記憶を固めていきます。この時、無理してパニック発作が出てしまうと「電車に乗ると苦しくなる」という記憶が強くなってしまい、逆効果です。電車に乗ってもパニック発作が出なかったという経験が消去学習に必要ですから、絶対にパニック発作が出ないような、ハードルがとても低い課題を設定することが大事になります。
まとめ
不安症は、恐怖の「学習」として理解できる
消去学習では恐怖の記憶を消すのではなく「大丈夫だ」という新しい記憶に上書きする
治療では焦らずハードルの低い課題を設定すると効果的


