不安症(不安障害)の治療
人の心は複雑で、様々な要因が関係します。不安症(不安障害)も同じで、脳・神経やホルモンなどの生物学的な要素、心の葛藤や考え方などの心理学的な要素、仕事や経済状況などの社会的要素が重なって不安症を作ります。そのため、不安症の治療も複数の要素があります。生物学的な薬物療法や、心理・社会的なケア・サポートなどの非薬物療法などを組み合わせて不安症を治療します。
非薬物療法
不安症(不安障害)には、心理カウンセリング、認知行動療法等の治療法が有効ということが知られています。認知行動療法は自分の考え方や捉え方を分析して修正する治療法ですが、同時に、自分の行動を変える治療も含みます。不安症の認知行動療法は、暴露療法もセットになることが多いです。暴露療法とは、不安、恐怖、緊張を感じる場所や場面にあえて接することで不安症を克服する治療です。これは少し大変ですが、初めは簡単なものから始め、何度もくり返し、徐々に心の負荷を強めると効果的です。
薬物療法
不安症で薬物療法が有効なことは、科学的に証明されています。不安症の治療では、うつ病の治療と同じく、抗うつ薬を使います。例えば、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、三環系抗うつ薬などの抗うつ薬が、脳に作用して、不安症を治します。しかし、抗うつ薬は数週間続けないと効果が出ないことが弱点です。抗うつ薬の飲み始めは吐き気や眠気などの副作用が出る場合もありますが、それでも飲み続けないと効果がありません。副作用には個人差があります。飲み始めの副作用が強い場合は、薬の用量を下げて、しばらく低用量で続けます。時間がたつと薬に耐性がつくので、その後に薬の用量を徐々に有効量まで増やすと、副作用を回避できます。
不安症にはベンゾジアゼピン系抗不安薬(ロラゼパム、アルプラゾラム等)も有効です。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性があり、内服して30-60分程度で効いてきます。これは抗うつ薬の弱点を補いますが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬には眠気や記憶障害などの副作用があります(これらは薬を中止すれば改善します)。また、数ヶ月の連続使用で依存性・耐性(効果減弱)の問題が出ることがあるため、長期使用は勧められません。
薬の弱点を補いあうために、最初は抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬を同時に使用し、病状が改善したらベンゾジアゼピン系抗不安薬を中止して、抗うつ薬だけ続けるという方法も一般的です。この方法なら、投与初期から不安症の改善が期待できます。
治療の目標
~なんのために治療するの?~
不安症(不安障害)では、特定の場所や場面のみで症状が出ることが多いです。そのため、症状の出る場所を避けるようになります。例えば、電車の中や人混みに不安や恐怖を抱く人は、電車や人混みを避けます。苦手な場面を避けていれば、一見して症状は無くなったように見えます。しかし、電車や人混みを避けて生きるのは不便なものです。これで本当に治ったと言えるでしょうか?
不安症の治療の目標は、症状を消すことだけではありません。苦手な場所や場面を克服することも治療のゴールです。
たとえば、
-
電車を避けてしまう人は、治療により電車に乗れるようになります。
-
人を避けてしまう人は、治療により他人と接しやすくなります。
不安症(不安障害)の治療を受けると、不安症状、自律神経症状、聴覚過敏などの症状が改善され、さらに、生活や行動を変えることができます。これが治療の意味です。