
私の説明が足りないのか、力不足なのか、SSRIについての誤解をよく目にします。
たとえば、SSRIの誤解からくるコメントとしては、「薬を数日飲んでみたがなんの効果もなかった」「辛いときに時々使っている」「すぐに薬を増やされた」などが典型例です。皆さまもこのような誤解はないでしょうか。
このような誤解を少しでも減らせると良いと思い、この記事を作成しました。良ければご覧ください。
目次
SSRIとは
SSRIとは抗うつ薬の一種で、うつ病の治療に用いられるほか、不安症(パニック障害、社交不安障害など)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、強迫性障害、月経前不快気分障害などの治療にも用いられます。抗うつ薬というと、うつ病だけにしか使われないような印象を受けますが、それは誤解で、実際は様々な精神疾患の治療に使われています。
医学的な説明を加えると、SSRIとは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)の略語で、セロトニンという神経伝達物質を増やすことで脳に働きかけ、心の状態を保つ作用があります。
何週間も続けないと意味がない
SSRIは、効果が出るのが遅いという特徴があります。約2週間ほどで効果が出始めると言われていますが、これは少しだけ効果が出始めるというだけで、しっかり効いてくるには1〜2ヶ月かかります。これはなかなかじれったいものです。
「薬を数日飲んでみたがなんの効果もなかった」と言う方が時々いますが、そういう薬なので仕方ないんですね。薬を使い始めてから2週間ほどは待つしかありません。正確に言うと、プラセボ効果という、薬を飲んだ安心感などの心理的な効果、気休めのような効果はありますが、それはSSRIに限ったことではありませんし、物理的な作用ではありません。セロトニンを増やしたことによる効果が出るのには、やはり2週間以上かかるのです。
また使い始めに、吐き気、下痢などの胃腸関係の副作用が出ることが多いのですが、これは1週間以内に改善していくことが多いので、最初だけの副作用と考えて良いです。薬を始めてしばらくは、効果が無く、副作用だけが出るので、困ったものですが、待てば効果が出ることは科学的にも分かっていることですから、待つしかありません。
とにかく、SSRIは、我慢して使い続ける薬だと思ってください。
毎日使わないと意味がない
SSRはI時々使うだけでは効果が出ません。即効性がまったくないので、頓服としての使い方ができないものになります。毎日根気よく使わないと効果が出ません。また、飲み忘れたりして、使う回数が減ると効果が落ちてしまいます。
SSRIを「辛いときに時々使っている」という人もたまに見かけますが、これは効果のない使い方になるので注意してください。
段階的に増やさないと意味がない
SSRIは段階的に用量を増やし、有効量まで増やすのが一般的です。1週間以上の時間をかけて、段階的に薬の用量を増やすことになっています。これは副作用を減らすための方法であり、患者様のための措置です。
しかし、毎度の診察ごとに薬が増えていくことに不安を覚える人は多いようです。まれに、「すぐに薬を増やされた」と怒る人も見かけます。しかし、そもそも、SSRIとはそういう薬なんです。
SSRIの効果が出ない理由として、薬を増やさず、少ない量で使い続けていることがあげられます。当たり前ですが、有効量まで増やさないと効果はありません。それに、有効量は人によっても個人差があるため、多めに使わないと効果が出ない体質の方もいらっしゃいます。SSRIは段階的に増やさないと、効果が出ず、使う意味がないと思ってください。
なお、SSRIの中でもエスシタロプラムについては、はじめから有効量の10mgで使い始めることができます。そのため、最初からずっと同じ量でも良い場合があります。ただし、実際は最初からエスシタロプラムを10mgで使うと、吐き気や下痢などの副作用が強いことがあるので、私は5mgから始めて、1-2週間後に10mgに増やすことをお勧めしています。
続けることで再発予防効果が出る
SSRIを始めて1-2ヶ月経過して元気になり、ここで薬を止める人もいます。しかし、薬をやめて数ヶ月すると症状がまた戻ってくることが多いです。これは精神症状の再発です。精神疾患は再発しやすいものですから、症状が無くなってからも、半年から1年を目安にSSRIを継続することが多いです。このように、症状が無くなった後の再発予防の治療を、維持療法と言います。
SSRIは、効果が出るのに数週間かかり、症状が良くなってからも維持療法があると考えると、やはり何ヶ月という単位で長期に使うものだと考えた方が良いと思います。
やめることができる
SSRIを使い続ける必要性を説明すると、SSRIは一生使わないといけないのかと誤解する人も出てきます。精神科の薬はやめられないという噂を聞いて、SSRIもいったん使い始めたら永遠にやめられないと誤解する人もいます。
これはまったくの誤解で、SSRIはやめることができます。数週間かけて段階的に減らしていき中止するという止め方はありますが、それさえ守っていればいつでもやめることができます。使い始めの、薬を増やす前の段階であれば、徐々に減らす必要もないので、即日中止も可能です。
また、症状が良くなったからSSRIを中止したいという人もいると思います。維持療法をやらずにSSRIをやめるのは、再発のリスクを考えるとおすすめできませんが、必ず再発するというものでもないので、維持療法をせずに、良くなったらSSRIをやめるという判断もありえます。
やめるときは段階的に減らす
繰り返しになりますが、SSRIをやめる時は、数週間かけて段階的に減らしてから中止します。SSRIを急にやめると、めまい、吐き気、頭痛、情緒不安定になるなどの離脱症状(中断症候群)が出る可能性があるため、徐々に減らしてから中止するという方法をとります。ゆっくり減らしても軽い離脱症状が出る体質の方もいますが、離脱症状は数日から数週間で自然と治まるので、あまり心配しなくて大丈夫です。
まれに薬をやめてからずっと情緒不安定で、離脱症状が続いていると考える人がいますが、SSRIを中止した後も症状がずっと続く場合は、精神症状の再発の方が考えやすいです。
SSRIに似た薬
SSRIに似た薬としては、SNRIがあります。SNRIはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor)の略語です。SNRIも抗うつ薬の一種であり、不安症などの他の精神疾患に使用されることもあります。SSRIとSNRIは本当によく似た薬で、効果もとても近く、使い方や副作用などもほぼ共通しています。今回説明したSSRIの使い方は、SNRIにも当てはまりますので、SNRIを使う方もこの説明を参考にしてみてください。
使い方はあなた次第
上記のように、SSRIは正しく使わないと効果がない薬です。短期間だけ使う、いつまでも量を増やさないで使い続けるなど、間違った方法により効果が出ないものなので、注意してください。
長期に薬を使いたくないという人は、そもそもSSRIを使わない方が良いと思います。他にも治療法はあります。
誰もあなたに薬を強制することはできません。医師はSSRIの使用を推奨するだけで、強制できません。最終的に、SSRIを使うか、使わないかを判断するのは、あなた自身です。
また、SSRIを正しく使うか、間違った方法で使うかも、あなた自身の判断になります。ただ、せっかく使うのであれば、正しい情報を得て、適切な使い方で使用した方が、自分自身のためになると思います。この記事が、その一助となれば幸いです。